「弁」

「弁」 という漢字がある。

この「弁」の字を使った熟語は

「弁護」「詭弁」「弁当」「弁償」「弁理」「花弁」「弁髪」「合弁」……
などたくさんある。
しかし何故「弁護」と「花弁」のようにまるで意味の異なる言葉に同じ字が使われているのだろうか?

これは、実はこの 「弁」 という字は元々 「弁」「辨」「辯」「瓣」「辮」「辦」 と6種類に書き分けられていたものを一緒くたにしたものだからである。[注1]
これらの字は、1946年に当用漢字(現在の常用漢字)が制定されたときに「弁」に統合されてしまったのである。

以下にこれら6つの字の使い分けを纏めておく。

文字主な意味と用例
「かんむり」という意味。
「武弁」などの「弁」。
「辧」とも書く(「辦」とは別)。
「区別する」「わきまえる」「返す」という意味。
「弁別」「弁理」「弁償」「弁当」などの「弁」。
「喋る」「言い争う」という意味。
「弁護」「詭弁」「弁論」「大阪弁」などの「弁」。
「花びら」「バルブ」という意味。
「花弁」「合弁花」「弁膜」「安全弁」などの「弁」。
「編み込む」「組み合わせる」という意味。
「弁髪」などの「弁」。
「処理する」「出来上がる」という意味。
「合弁会社」などの「弁」。
(日本語の用例は少ないが、中国語では「弁公室」(オフィスの意)の形でよく用いられる)

複数の字が一纏めにされてしまった例としては、「弁」の他にも

「欠」と「缺」、「余」と「餘」、「芸」と「藝」、「予」と「豫」
などが存在する。

普段は区別していない文字でも、偶には「元々は別だったのだ」と意識してみると面白いかもしれない。

おまけ

筆者が中学生の頃、上記の各文字を書き分けるべく

辨 辯 瓣 辮 辦
という略字を考え出したことがある。残念乍ら需要は全く無いと思われる。

^ 1. 正式には常用漢字表において「弁」の旧字とされているのは「辨」「辯」「瓣」のみであるが、実際には「辮」「辦」も「弁」で代用されることが多い。