ヤードポンド法と尺貫法

度量衡の国際標準は、メートル法(の一種である国際単位系)である。
これは、「メートル」「キログラム」「秒」といった単位を基準とする単位系である。

国際単位系では、下表に示す7つの物理定数の値を定義値とすることで、明確な形で単位系を定めている。
例えば「1秒はセシウム原子標準の 9192631770 周期分の時間」「1 m は光が真空中を 1/299792458 秒間に進む距離」といった具合に、これらの定義定数から逆算することで各単位の値が定まる。

国際単位系の定義定数
物理定数 定義値
セシウム原子標準の周波数 ΔνCs = 9 192 631 770 Hz
真空中の光速度 c = 299 792 458 m/s
プランク定数 h = 6.626 070 15 × 10−34 J·s
電気素量 e = 1.602 176 634 × 10−19 C
ボルツマン定数 k = 1.380 649 × 10−23 J/K
アボガドロ定数 NA = 6.022 140 76 × 1023 /mol
緑色光 (540 THz) の視感度 Kcd = 683 lm/W

世界の多くの地域ではメートル法を公的な単位系として用いているが、米国をはじめ一部の地域ではメートル法ではなくヤードポンド法が用いられている。
では、ヤードポンド法の単位はどのように定義されているのだろうか?

米国において現在有効な公的なヤードとポンドの定義は、次の通りである。

商務省国立標準局公告「ヤードとポンドの値の改良」(連邦官報第24巻5348ページ, 1959年7月1日)〔筆者訳〕

国立標準局が実施する全ての合衆国慣用単位系の較正は、引き続きメートル法に基づいて実施され、後述する合衆国沿岸測地測量局のものを除き、次の正確な等式及び適当な倍量及び分量に拠る:

1 ヤード = 0.914 4 メートル
1 ポンド(常衡) = 0.453 592 37 キログラム

結局のところ、ヤードポンド法はメートル法に拠って定義されているのである。

では、嘗ての日本で用いられていた単位系である尺貫法はどうだろうか?
尺貫法は現在の計量法では極一部を除いて取引や証明での使用は認められていないが、計量法施行以前に適用されていた度量衡法では次のように定義されていた。

度量衡法(明治24年3月24日法律第3号)〔昭和27年3月1日廃止〕

第二條
度量衡ノ原器ハ白金、「イリヂウム」合金製ノ棒及分銅トス其ノ棒ノ面ニ記シタル標線間ノ攝氏〇、一五度ニ於ケル長サ三十三分ノ十ヲ尺トシ分銅ノ質量四分ノ十五ヲ貫トス

ここで「原器」とされている「棒」と「分銅」とは、当時のメートル法の標準であった「メートル原器」と「キログラム原器」のことである。
つまり、度量衡法では実質的に「1尺 = 10/33 メートル、1貫 = 15/4 キログラム」を定義としており、尺貫法もメートル法に拠って定義されていたということである。
(この換算は、計量法施行後も暫くの間は計量法施行法により存続していた)

ヤードポンド法も尺貫法も現在の日本では一部を除いて取引や証明での使用が認められていない。
とは言え、実際には「27(= インチ)モニタ」「15(= ポンド)ボール」や「18リットル(≒ 斗)缶」「3.3平米(≒ 坪)単価」のような形でヤードポンド法や尺貫法に由来する値が日常に潜んでいる。
こういうものを探してみると面白いかもしれない。