本ページは最長片道切符の流儀とバリエーションのサブページです。
最長片道切符の流儀とバリエーション本編では、最長片道切符の諸流儀の相違点として以下のものを挙げました。(〔〕内は本稿で便宜上付した名称)
本ページでは、これらの相違点それぞれについて詳細を説明します。
JR線の運賃は、原則として実際の線路の長さに基づく粁程に賃率を乗じて計算します。
ここで用いる「実際の線路の長さに基づく粁程」のことを営業キロと呼びます。[注1]
しかし、全国一律同じ賃率で運賃を計算したのでは、利用者の少ない路線では採算が合いません。
そこで、地方交通線と呼ばれる特に利用者の少ない路線については、実際よりも長い粁程があるものとして運賃を計算することになっています。
ここで用いる便宜的な粁程を運賃計算キロと呼びます。
地方交通線の運賃計算キロは、営業キロの約1.1倍に設定されています。
最長片道切符の求解においては、この「営業キロ」と「運賃計算キロ」のどちらの最長性を求めるかで流儀が分かれます。
概して言えば、最長片道切符を「旅程が最長の切符」と捉えるならば前者、「運賃が最高額の切符」と捉えるならば後者となるでしょう。
本相違点については、本稿執筆現在、「営業キロ派」を採用している人が多数派のようです。
「運賃計算キロ派」を採用している人には、最長片道切符計算の第一人者である SWA さんがいらっしゃいます。[参考1]
上述の通り、JR線の運賃は(一定の補正を行った上での)経路に沿った粁程に賃率を乗じて計算します。
このとき、粁程の算出に用いる経路を券面経路或いは運賃計算経路と呼びます。[注2]
乗車券を使用する際には、必ずしも券面経路の通りに乗車せねばならない訳ではありません。
実際には、幾つかのケースで券面経路と異なる経路の乗車が認められています。
最長片道切符においても、このようなケースを駆使して実際に乗車できる経路(本稿では実乗経路と呼びます)を最長化する、という流儀が考えられます。
実際にはこの流儀に立って求解・旅行をしている例を筆者は知りませんが、本稿ではこれも流儀の一つとして求解の対象とします。
以下、券面経路と異なる経路の乗車が認められているケースのうち、最長片道切符の求解に関係するものを挙げます。
券面経路が「新川崎~鶴見~川崎」(下図二重線)である乗車券を有しているケースを考えます。
新川崎駅より南下する列車(横須賀線)は全て鶴見駅・新子安駅・東神奈川駅を通過して横浜駅まで行ってしまうので、実際にはこの券面経路の通りに乗車することは不可能です。
このようなケースでは、例外的に券面経路から外れた鶴見~横浜間(下図太線)の区間外乗車が認められています。
同様のケースは特定の分岐区間に対する区間外乗車の取扱いの特例(旅客営業取扱基準規程第149条)として規定されています。
券面経路が「東京~(東海道線)~金山~(中央線)~多治見」(下図二重線)である乗車券を有しているケースを考えます。
東海道線(新幹線を含む)と中央線との分岐駅が名古屋駅より僅かに手前の金山駅であるがために、両線の乗継のために手前の豊橋駅や三河安城駅で新幹線を降りて金山駅まで在来線に乗らねばならないとしたら、余りに不合理です。
このようなケースでは、例外的に券面経路から外れた金山~名古屋間(下図太線)の区間外乗車が認められています。
同様のケースは分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例(旅客営業取扱基準規程第151条)として規定されています。
券面経路が「新宿~池袋~十条~赤羽~浦和」(下図二重線)である乗車券を有しているケースを考えます。
新宿~浦和間を結ぶ列車は「湘南新宿ライン」が多数設定されています。
しかし、湘南新宿ラインの列車は配線の都合上「新宿~池袋~田端~赤羽~浦和」という経路を通るので、この券面経路からは外れてしまします。
それを以て湘南新宿ラインの列車に乗車できないのは余りに不合理です。
そこで、池袋~田端~赤羽間を直通運転する列車に乗車する場合に限っては、券面経路から外れた池袋~田端~赤羽間(下図太線)の区間外乗車が認められています。
同様のケースは特定列車に対する旅客運賃及び料金の計算経路の特例(旅客営業規則第70条の2)として規定されています。
三原~海田市間を通過する場合、西条経由(下図二重線)か呉経由(下図太線)かは運賃計算上区別しません。
運賃計算は西条経由の粁程で為されますが、いずれの経路で乗車しても問題ありません。
同様のケースは特定区間における旅客運賃・料金計算の営業キロ又は運賃計算キロ(旅客営業規則第69条)として規定されています。
券面経路が「天満~大阪~神戸~西明石」(下図二重線)である乗車券を有しているケースを考えます。
新大阪~西明石間は、在来線(大阪・神戸経由)と新幹線(新神戸経由)とが別の経路として扱われています。
このようなケースでも、上述の金山~名古屋間のケースと同様に、大阪から新大阪まで“戻る”形で新大阪を経由して西明石まで新幹線に乗車することができます(下図太線)。
同様のケースは選択乗車(旅客営業規則第157条)として規定されています。
券面経路が「大宮~浦和~南浦和~東浦和」(下図二重線)である乗車券を有しているケースを考えます。
大宮~南浦和間は、浦和経由の京浜東北線の列車の他、与野~武蔵浦和間で「西浦和支線」と呼ばれる支線を経由する列車(快速「しもうさ」等)が設定されています。
西浦和支線は運賃計算上の営業キロが設定されていないため、西浦和支線経由の列車は運賃計算上は浦和を経由しているものと見做されます。
従って、浦和経由の乗車券で西浦和支線経由の列車に乗車することができます(下図太線)。[参考2]
なお、東海道線鶴見~大船間(横浜経由 24.8 km の乗車券で横浜羽沢経由 25.8 km の乗車が可能)も同様ではありますが、鶴見~大船間は根岸線経由 29.2 km の方が粁程が長いので、最長路には影響しません。
日本全国に鉄道網を敷いている事業者はJRグループのみであり、最長片道切符は必然的にJR線を中心とする乗車券となります。
JR線を中心とする乗車券とは言っても、その経路にはBRT線(自動車線)や私鉄線を組み込むことも可能です。
これをどこまで認めるかに依って、以下4つの流儀に分かれます。
自動車線については、1985年に種村直樹さんが国鉄自動車線を含む最長片道切符の旅行を実施しています。[参考3]
しかし、その後自動車線が全線廃止(分社化)されたこともあってか、自動車線を含める流儀は主流にはならなかったようです。
風向きが変わったのは、2011年の東日本大震災で被災した気仙沼線・大船渡線がBRTとして復旧してからです。
これ以降、最長片道切符の経路にBRT線を含めるか否かで流儀が二分されています。
※現行制度上、最長片道切符の経路に組み込むことができるのは気仙沼線・大船渡線BRTのみです。
日田彦山線BRTは最長片道切符の経路に組み込むことはできません。
私鉄線については、整備新幹線の並行在来線の多くが第三セクター会社としてJRから分離され、JR線との通過連絡運輸を始めたことで、流儀の差を生ずるようになりました。
最長片道切符の経路に組み込み得る(JR旅客6社との通過連絡運輸を認めている)私鉄は以下の6社です。
# | 事業者 | 区間 |
---|---|---|
1 | IGRいわて銀河鉄道 | 盛岡~好摩間 |
2 | えちごトキめき鉄道 | 直江津~糸魚川間, |
3 | 伊勢鉄道 | 河原田~津間 |
4 | WILLER TRAINS(京都丹後鉄道) | 福知山~西舞鶴間, 西舞鶴~豊岡間, 豊岡~福知山間 |
5 | 智頭急行 | 上郡~佐用間, 佐用~智頭間, 上郡~智頭間 |
6 | 土佐くろしお鉄道 | 窪川~若井間 |
但し、1枚の乗車券で複数回の通過連絡運輸を適用することはできません。最長片道切符に組み込める私鉄線は高々1社までです。
(過去にはJR西日本管内に限っては複数回の通過連絡運輸を認められていたようです[参考4]が、現在は不可とされています[参考5])
1枚の乗車券の経路にBRT線と私鉄線とを両方組み込むことの可否については、規則上あまり判然としません。
BRT線も通過連絡運輸の一種と見做して「BRT線と私鉄線とを併用するのは不可」と見る向きもあるようですが、実際には認められているようです。[参考6]
これに因り、BRT線と私鉄線の両方の通過を認める流儀も存在しています。
東北線(宇都宮線)に、日暮里~尾久~赤羽間の「尾久支線」と呼ばれる支線があります。
尾久駅より南下する列車は全て日暮里駅を通過してその先の上野駅まで行ってしまいます。
そのため、尾久駅より西日暮里以遠または三河島以遠へ向かう場合は、日暮里~上野間の区間外乗車が認められています。
(上述の特定の分岐区間に対する区間外乗車の取扱いの特例の一つ)
また、赤羽以遠(川口/北赤羽/十条方面)から尾久を経由して三河島以遠に向かう場合、赤羽~日暮里間は田端経由で運賃計算を行うことになっています。(上述の経路特定区間の一つ)
西日暮里以遠~日暮里~三河島以遠の乗車券においては、日暮里~東京間の区間外乗車が認められています。
問題となるのが、「赤羽以遠(川口/北赤羽/十条方面)~尾久~日暮里~西日暮里以遠」または「田端以遠(駒込方面/西日暮里)~赤羽~尾久~日暮里~三河島以遠」という経路です。
これらは上のいずれにも当て嵌まらないので、区間外乗車が認められず、これらの経路での乗車は(1枚の乗車券では)不可能である、とする解釈があります。[参考7]
更に言うと、これらの経路での乗車券の発券自体が不可能であるとする説もあります。[参考8]
こうした経路での発券や乗車が可能であるか否かは尾久問題或いは日暮里問題と呼ばれ、流儀の分かれる点となっています。[注3][注4]
通常、新幹線が並行在来線を持つ場合、両者は(或る一定の規則の下で)同一視されます。
しかし、歴史的経緯により、山陽新幹線の新下関~博多間とその並行在来線である山陽線・鹿児島線については、「原則として別線として扱い、条件に依り同一視する」ものとして扱われます。
この「条件」の解釈に揺れがあり、結果として最長片道切符においても流儀の違いが生じています。
(詳細は [参考9] や [参考10] を参照)
例えば、下図のような「本州方面→新幹線→博多→原田→折尾→若松」という経路を考えます。
山陽新幹線は鹿児島線とは別線であるものと解釈すれば、特にルートの重複等は発生していないので、この経路は片道乗車券の経路として有効なものであると言えます。
一方、山陽新幹線を鹿児島線と同一の線路と解釈する場合、この経路は「折尾を2回通過するルート」となってしまいます。
従って、この経路の片道乗車券を発券することはできません。
どちらの解釈を採用するかはJRの担当者に依り区々のようです。
山陽新幹線と並行在来線とを別線と解釈する場合であっても、「本州方面→新幹線→博多→吉塚・香椎方面」と折り返す経路は片道乗車券の経路として認められていません。
- (旅客運賃・料金計算上の営業キロ等の計算方)
第68条
- 4 (3)
- 新下関・博多間の新幹線の一部又は全部と同区間の山陽本線及び鹿児島本線の一部又は全部とを相互に直接乗り継ぐ場合は、次により計算する。
- イ
- 鹿児島本線中小倉・博多間の一部又は全部(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)と鹿児島本線(新幹線)中小倉・博多間(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)とを小倉又は博多で相互に直接乗り継ぐ場合、小倉又は博多で営業キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
しかし、これには例外があり、吉塚から篠栗線(長者原・桂川方面)へ向かう経路に限っては認められています。
この場合、吉塚~博多間の往復の営業キロは除いて、宛も「山陽新幹線上に吉塚駅が存在し、そこで篠栗線に乗り継ぐ」かのように扱います。
- (西小倉・小倉間及び、吉塚・博多間の区間外乗車に係わる片道乗車券等の発売方の特例)
第43条の2- 前条及び規則第26条の規定にかかわらず、南小倉以遠(城野方面)の各駅と博多南若しくは博多以遠(竹下方面)の各駅相互間、柚須以遠(原町方面)の各駅と小倉以遠(門司又は新下関方面)の各駅相互間又は南小倉以遠(城野方面)の各駅と柚須以遠(原町方面)の各駅相互間を乗車する旅客が、新幹線(小倉・博多間)に乗車する場合は、西小倉・小倉間又は吉塚・博多間において途中下車しない限り、当該区間の営業キロを除いた片道乗車券又は往復乗車券を発売する。
これは、在来線の特急については「小倉・折尾・香椎方面→吉塚→長者原・桂川方面」という乗車券で吉塚~博多間の区間外乗車が認められていることと平仄を合わせるための措置です。
(上述の分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例の一つ)
- (分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例)
第151条- 次に掲げる区間の左方の駅を通過する急行列車へ同駅から分岐する線区から乗り継ぐ(急行列車から普通列車への乗継ぎを含む。) ため、同区間を乗車する旅客 (定期乗車券を所持する旅客を除く。) に対しては、当該区間内において途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで、当該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。
- 吉塚・博多間
- 2 前項の規定は、当該分岐駅に停車しない普通列車の場合について準用する。
この特例を適用できるか否かについては解釈の揺れはありません。
とは言え、「本州方面→新幹線→(吉塚)→長者原・桂川方面」という乗車券は実質的には吉塚~博多間で折り返し乗車を行わないと使えない乗車券ですから、最長片道切符としては如何なものか、として避ける流儀もあります。[参考11]
上の特例を利用して「本州方面→新幹線→(吉塚)→長者原・桂川方面」という経路を採った場合、この経路は「博多駅を通過する」という扱いになるのか否かも相違点です。
例えば、下図のような「本州方面→新幹線→(吉塚)→桂川→原田→博多→博多南」という経路を考えます。
この経路は、「新幹線から篠栗線への乗継において吉塚~博多間はあくまで区間外乗車である」という立場を採れば、片道乗車券として有効な経路です。
一方、「博多で乗り継ぐ経路ではあって、単に営業キロからは吉塚~博多間を除くだけである」という立場を採れば、片道乗車券として無効な経路となります。
この差異は、後者の立場で求解した SWA さん[参考12]に対し、無人快速さんが前者の立場で検証した[参考13]際の論点でした。
この差異が最長片道切符問題に影響していたのは、2011年3月12日(九州新幹線博多~新八代間開業)から2023年8月27日(日田彦山線添田~夜明間のBRT化)までの12年間でした。
現在はどちらの解釈を採用しても最長片道切符の経路は変わりません。
上述の通り、券面経路が「池袋以遠~十条~赤羽以遠」の乗車券で池袋~田端~赤羽間の区間外乗車が認められるケースがあります。
では、券面経路が「田端以遠~池袋~十条~赤羽以遠」の場合(下図)、池袋~赤羽間で田端経由の湘南新宿ラインの列車に乗車することは可能でしょうか。
池袋~田端~赤羽間の区間外乗車を認めている規則が以下の「旅客営業規則第70条の2」です。
- (特定列車に対する旅客運賃及び料金の計算経路の特例)
第70条の2- 次の各号に掲げる場合で、当該各号の末尾のかっこ内の上段の区間を乗車するときは、第67条の規定にかかわらず、○印の経路の営業キロによって急行料金及び特別車両料金を計算する。
- (1)
- 赤羽以遠(川口方面)の各駅と池袋以遠(目白方面)の各駅との相互間を、東北本線及び山手線経由で直通運転する列車に乗車するとき
- 東北本線及び山手線
- 赤羽線
- 2 前項各号に掲げる列車で当該各号の末尾のかっこ内の上段の区間を乗車する場合、その区間内において途中下車しない限り、第67条の規定にかかわらず、○印の経路の営業キロによって旅客運賃を計算することがある。このとき、乗車券の券面の経路は、旅客運賃の計算の経路を表示する。
池袋~赤羽間で田端経由の湘南新宿ラインの列車に乗車する場合、「赤羽と池袋との相互間を、東北本線及び山手線経由で直通運転する列車に乗車するとき」に該当しています。
よって、この条文を適用して区間外乗車を行うことはできそうです。
尤も、この条文には「赤羽以遠(川口方面)」「池袋以遠(目白方面)」と敢えて方面が記載されており、池袋で大塚・田端方面へ乗り継ぐ場合は想定されていないようにも読めます。
そう考えると、このケースでは復乗は不可能かもしれません。
※とは言え、「赤羽以遠(川口方面)」「池袋以遠(目白方面)」はそれぞれ「赤羽」「池袋」を含みますし、これを言い出すと赤羽で北赤羽方面へ乗り継ぐのも不可能ということになるので、筆者はこの解釈は無理があると考えます。
本稿では、列車特定区間の区間外乗車による復乗は可能であるとした上で、これを不可能とした場合の経路を補足的に取り上げます。
(以前はこれを田端問題と呼んで相違点の1つに挙げていましたが、徒にバリエーションを増やすだけなので補足事項に格下げしました)