旧暦の計算《時刻系編》

本ページは旧暦の計算のサブページです。

本ページでは、時刻の様々な表現方法(時刻系)の差異について記載する。
(あくまで旧暦の計算に必要な範囲の記載に留め、厳密な説明は省略する)

目次

地方真太陽時

時刻の定義として最も素朴なものが地方真太陽時 $\LAT$ である。
これは、その地点で太陽が南中する時刻を「正午」とすることによって定まる時刻である。

太陽が南中する時刻の間隔(すなわち地方真太陽時における1日の長さ)は概ね $\text{86,400}\,\sec$であるが、季節により変動する(下図)。
これは、太陽の進む速さが一定でないことと、太陽の軌道面(黄道面)に対して地球の地軸が約 $23\degree26'$ 傾いていることに因る。

1868年近辺の1日の長さ(太陽の南中時刻の間隔)
1868年近辺の1日の長さ(太陽の南中時刻の間隔)

地方真太陽時は、寛政暦・天保暦において作暦の基準として使われていた時刻系である。

地方平均太陽時

地方真太陽時は太陽の動きに即してはいるが、1日の長さが一定ではなく不便である。
そこで、地方真太陽時の1日の長さを均した時刻系である地方平均太陽時 $\LMT$ が広く用いられている。

太陽の南中時刻(地方真太陽時における正午 $\text{12:00}$)を地方平均太陽時で示したものが下図である。

1868年近辺の太陽の南中時刻
1868年近辺の太陽の南中時刻

この時刻と地方平均太陽時の正午 $\text{12:00}$ との差を均時差 $\ET(t)$ と呼ぶ。

1868年近辺の均時差
1868年近辺の均時差 $\ET(t)$

同じ時刻 $t$ を地方真太陽時で表した値 $\tLAT$ と地方平均太陽時で表した値 $\tLMT$ との関係は次式の通りとなる。

\[ \tLAT = \tLMT + \ET(t) \]

均時差 $\ET(t)$ は、太陽の平均黄経 $\lbarSolar(t)$、太陽の真黄経 $\lSolar(t)$、地球の赤道傾斜角 $\varepsilon \mathrel{(=} 23\degree26')$ を用いて次式で表される。
平均黄経と真黄経については朔の計算編を参照。

\[ \ET(t) = \bigg( \lbarSolar(t) - \arctan\frac{\tan\lSolar(t)}{\cos\varepsilon} \bigg) \cdot \frac{1\,\day}{360\degree} \]

但し、上式において $\arctan\dfrac{\tan\lSolar(t)}{\cos\varepsilon}$ は $\lSolar(t)$ と同じ象限の角度(すなわち $\mathrm{atan2}(\sin\lSolar(t), \cos\varepsilon\cos\lSolar(t))$)を採るものとする。
なお、本稿において黄経の基準(黄経 $0\degree$)は冬至点の方向である。

旧暦の計算に使われる地方平均太陽時

一口に「地方平均太陽時」と言っても、観測地点の経度に依って時刻の値は異なる(時差)。
旧暦の計算に関係する地方平均太陽時には以下のものがある。

京都平均太陽時
明治改暦まで作暦の基準が置かれていた京都における地方平均太陽時。
本稿では、東経 $135\degree45'45''$(京都御苑内測候所)における時刻を採用し、$\text{GMT+9:03:03}$ に等しいものとして扱う。
東京平均太陽時
明治改暦以降、国際子午線会議(1884年)まで日本の子午線の基準が置かれていた東京における地方平均太陽時。
本稿では、東経 $139\degree45'15''$(江戸城天守台)における時刻を採用し、$\text{GMT+9:19:01}$ に等しいものとして扱う。
中央標準時 $\JST$(明石平均太陽時)
東経 $135\degree$ における地方平均太陽時。1888年より日本の標準時と定められている。
$\text{GMT+9:00:00}$ に等しい。
日本夏時刻 $\JDT$
1948–1951年夏季に施行された夏時刻(サマータイム)。中央標準時を1時間進めたもの。
$\text{GMT+10:00:00}$ に等しい。
グリニッジ標準時 $\GMT$
経度 $0\degree$(本初子午線)における地方平均太陽時。世界時 $\UT1$ 及び $\UTC$ の元になった時刻。
本稿では、協定世界時 $\UTC$ に等しいものとして扱う。

この他にも日本で使用されていた時刻系はあるが(中央標準時制定以前の各地の地方平均太陽時や、1896–1937年に宮古列島以西で適用されていた西部標準時等)、旧暦の計算に関係するものではないので本稿では扱わない。

協定世界時

平均太陽時は真太陽時を均した時刻系ではあるが、それでも1日の長さは一定とはならない。
これは、地球の自転周期が不規則に増減することに因る。

とは言え、時計の針の進みを地球の自転周期の不規則な変動に同期させるのは現実的ではない。
そこで、実用性を確保しつつ平均太陽時と歩調を合わせた時刻系として、協定世界時 $\UTC$ が以下の形で定められている。
(協定世界時 $\UTC$ に対し、観測に基づく真のグリニッジ標準時を世界時 $\UT1$ と呼ぶ)

協定世界時は、「秒」の刻みを国際単位系秒と一致させつつ、時刻の値が世界時 $\UT1$ に対して $\pm0.9\,\sec$の範囲に収まるように定めた時刻系であると言える。

今日我々が常用している時刻系は、この協定世界時を基準に定義されているものである。
(例えば、現在の日本時間 $\JST$ は $\UTC$ を9時間進めた時刻 $\text{UTC+9:00:00}$ に正確に等しい)

地球時

協定世界時は閏秒の挿入/削除により1日の長さが変動するので、地球の自転とは無関係な天体の運行の計算等には不向きである。
そのような計算には、以下で定まる地球時 $\TT$ という時刻系が用いられる。

協定世界時 $\UTC$ と地球時 $\TT$ の時刻の乖離(1977年時点で $48.184\,\sec$)は、閏秒を挿入する度に広がり、削除する度に狭まる。
この乖離(より正しく書くと $\UT1$ と $\TT$ との乖離)を $\DT$ と書く。

同じ時刻 $t$ を $\UT1, \UTC, \TT$ で表した値をそれぞれ $\tUTo, \tUTC, \tTT$ とすると、これらの関係は次式の通りとなる。

\[ \begin{align*} \tTT &= \tUTo + \DT \\ &\fallingdotseq \tUTC + \DT \end{align*} \]

本稿では $\UT1$ と $\UTC$ との差(最大 $0.9\,\sec$)は無視し、$\tTT = \tUTC + \DT$ と見做す。

ΔT

$\DT$ の値は下図のように変動しており、2022年時点においては約 $69\,\sec$である。

ΔT の値
米国立航空宇宙局 (NASA) 及び 英国王立航海暦局 (HMNAO)[注1] による $\DT$ の値(破線は予測値)

$\DT$ の値を求めるには、NASA が公開している略算式を用いればよい。
但し、未来の $\DT$ の値はあくまで予測値であり、遠い将来まで正確に計算できる訳ではない。

採用する $\DT$ の予測値の違いに依り旧暦の日付に差異が生じるものを下表に纏める。

$\DT$ の予測値に依る旧暦の日付の差異(2100年まで)
差異箇所 NASA の予測値を用いた場合
(グレゴリオ暦)
HMNAO の予測値を用いた場合
(グレゴリオ暦)
2074年7月朔(第25648朔)
2096年12月朔(第25925朔)

ユリウス年数

天体の運行を計算する際は、ユリウス年数 $\JY(t)$ の形で時刻を表すことが多い。
これは、基準時刻 $\Jtk \mathrel{(=} \date{2000}{1}{1}\text{12:00 (TT)})$ から時刻 $t$ までの経過時間を、$\text{31,557,600\,\sec}$($365.25\,\day$)を単位として表したものである。
(時刻 $t$ が $\Jtk$ より前の時刻である場合は $\JY(t)$ は負の値となる)

\[ \JY(t) := \frac{\text{$\Jtk$ から $t$ までの経過秒数}}{\text{31,557,600\,\sec}} = \frac{\tTT - \date{2000}{1}{1}\text{12:00}}{\text{31,557,600\,\sec}} \]

暦の上の日時は地球時 $\TT$ ではなく地方真太陽時 $\LAT$ や地方平均太陽時 $\LMT$ であるから、旧暦を計算する際は実際には以下の形の式を用いることになる。
(以下の式において、時刻の差は閏秒等を考慮せず単純に日数と時刻の差により算出される時間を表す)[注2]

\[ \JY(t) = \begin{cases} \dfrac{(\tLAT - \date{2000}{1}{1}\text{12:00}) + \DT - \TZ - \ET(t)}{\text{31,557,600\,\sec}} &\text{(寛政暦・天保暦)} \\[2ex] \dfrac{(\tLMT - \date{2000}{1}{1}\text{12:00}) + \DT - \TZ}{\text{31,557,600\,\sec}} &\text{(明治改暦以降)} \\ \end{cases} \]

ここで、$\TZ$ は $\UTC$(或いは $\GMT$)に対する $\LAT$ 乃至 $\LMT$ の時差である。

\[ \TZ = \begin{cases} \text{ 9:03:03(京都)} &\text{(1872年以前)} \\ \text{ 9:19:01(東京)} &\text{(1873--1887年)} \\ \text{ 9:00:00(明石)} &\text{(1888年以降、但し1948--1951年夏季を除く)} \\ \text{10:00:00(夏時刻)} &\text{(1948--1951年夏季)} \end{cases} \]

計算例1: 1989年7月6日3時(グレゴリオ暦・中央標準時)

例として、$\date{1989}{7}{6}\text{03:00}$(グレゴリオ暦・中央標準時)のユリウス年数を計算する。

であるから、$\date{1989}{7}{6}\text{03:00}$(グレゴリオ暦・中央標準時)のユリウス年数は次式の通りとなる。

\[ \begin{align*} &\JY(\date{1989}{7}{6}\text{03:00 (JST)}) \\[1ex] &= \dfrac{(\date{1989}{7}{6}\text{03:00} - \date{2000}{1}{1}\text{12:00}) + \DT - \TZ}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex] &= \dfrac{-3831\,\day\,\text{9:00:00} + 56.6\,\sec - \text{9:00:00}}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex] &= \dfrac{-3831\,\day\,\text{17:59:03.4}}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex] &= \dfrac{-331063143.4\,\sec}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex] &= -10.49075796 \end{align*} \]

計算例2: 1854年2月13日12時(グレゴリオ暦・京都真太陽時)

別の例として、$\date{1854}{2}{13}\text{12:00}$(グレゴリオ暦・京都真太陽時)のユリウス年数を計算する。

であるから、$\date{1854}{2}{13}\text{12:00}$(グレゴリオ暦・京都真太陽時)のユリウス年数は次式の通りとなる。

\[ \begin{align*} &\JY(\date{1854}{2}{13}\text{12:00 (LAT)}) \\[1ex] &= \dfrac{(\date{1854}{2}{13}\text{12:00} - \date{2000}{1}{1}\text{12:00}) + \DT - \TZ - \ET(\date{1854}{2}{13}\text{12:00 (LAT)})}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex] &= \dfrac{-53282\,\day + 7.3\,\sec - \text{9:03:03} - (-868.8\,\sec)}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex] &= \dfrac{-53282\,\day\,\text{8:48:26.9}}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex] &= \dfrac{-4603596506.9\,\sec}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex] &= -145.87917037 \end{align*} \]

参考資料

脚注