旧暦の計算《時刻系編》
本ページは旧暦の計算のサブページです。
本ページでは、時刻の様々な表現方法(時刻系)の差異について記載する。
(あくまで旧暦の計算に必要な範囲の記載に留め、厳密な説明は省略する)
地方真太陽時
時刻の定義として最も素朴なものが地方真太陽時 $\LAT$ である。
これは、その地点で太陽が南中する時刻を「正午」とすることによって定まる時刻である。
太陽が南中する時刻の間隔(すなわち地方真太陽時における1日の長さ)は概ね $\text{86,400}\,\sec$であるが、季節により変動する(下図)。
これは、太陽の進む速さが一定でないことと、太陽の軌道面(黄道面)に対して地球の地軸が約 $23\degree26'$ 傾いていることに因る。
地方真太陽時は、寛政暦・天保暦において作暦の基準として使われていた時刻系である。
地方平均太陽時
地方真太陽時は太陽の動きに即してはいるが、1日の長さが一定ではなく不便である。
そこで、地方真太陽時の1日の長さを均した時刻系である地方平均太陽時 $\LMT$ が広く用いられている。
太陽の南中時刻(地方真太陽時における正午 $\text{12:00}$)を地方平均太陽時で示したものが下図である。
この時刻と地方平均太陽時の正午 $\text{12:00}$ との差を均時差 $\ET(t)$ と呼ぶ。
同じ時刻 $t$ を地方真太陽時で表した値 $\tLAT$ と地方平均太陽時で表した値 $\tLMT$ との関係は次式の通りとなる。
\[
\tLAT = \tLMT + \ET(t)
\]
均時差 $\ET(t)$ は、太陽の平均黄経 $\lbarSolar(t)$、太陽の真黄経 $\lSolar(t)$、地球の赤道傾斜角 $\varepsilon \mathrel{(=} 23\degree26')$ を用いて次式で表される。
平均黄経と真黄経については朔の計算編を参照。
\[
\ET(t) = \bigg( \lbarSolar(t) - \arctan\frac{\tan\lSolar(t)}{\cos\varepsilon} \bigg) \cdot \frac{1\,\day}{360\degree}
\]
但し、上式において $\arctan\dfrac{\tan\lSolar(t)}{\cos\varepsilon}$ は $\lSolar(t)$ と同じ象限の角度(すなわち $\mathrm{atan2}(\sin\lSolar(t), \cos\varepsilon\cos\lSolar(t))$)を採るものとする。
なお、本稿において黄経の基準(黄経 $0\degree$)は冬至点の方向である。
旧暦の計算に使われる地方平均太陽時
一口に「地方平均太陽時」と言っても、観測地点の経度に依って時刻の値は異なる(時差)。
旧暦の計算に関係する地方平均太陽時には以下のものがある。
- 京都平均太陽時
- 明治改暦まで作暦の基準が置かれていた京都における地方平均太陽時。
本稿では、東経 $135\degree45'45''$(京都御苑内測候所)における時刻を採用し、$\text{GMT+9:03:03}$ に等しいものとして扱う。
- 東京平均太陽時
- 明治改暦以降、国際子午線会議(1884年)まで日本の子午線の基準が置かれていた東京における地方平均太陽時。
本稿では、東経 $139\degree45'15''$(江戸城天守台)における時刻を採用し、$\text{GMT+9:19:01}$ に等しいものとして扱う。
- 中央標準時 $\JST$(明石平均太陽時)
- 東経 $135\degree$ における地方平均太陽時。1888年より日本の標準時と定められている。
$\text{GMT+9:00:00}$ に等しい。
- 日本夏時刻 $\JDT$
- 1948–1951年夏季に施行された夏時刻(サマータイム)。中央標準時を1時間進めたもの。
$\text{GMT+10:00:00}$ に等しい。
- グリニッジ標準時 $\GMT$
- 経度 $0\degree$(本初子午線)における地方平均太陽時。世界時 $\UT1$ 及び $\UTC$ の元になった時刻。
本稿では、1971年以前は $\UT1$ に、1972年以降は $\UTC$ に等しいものとして扱う。[注1]
この他にも日本で使用されていた時刻系はあるが(中央標準時制定以前の各地の地方平均太陽時や、1896–1937年に宮古列島以西で適用されていた西部標準時等)、旧暦の計算に関係するものではないので本稿では扱わない。
UT1 と UTC
平均太陽時は真太陽時を均した時刻系ではあるが、それでも1日の長さは一定とはならない。
これは、地球の自転周期が不規則に増減することに因る。
とは言え、時計の針の進みを地球の自転周期の不規則な変動に同期させるのは現実的ではない。
そこで、実用性を確保しつつ平均太陽時と歩調を合わせた時刻系として協定世界時 $\UTC$ が定められている。
これに対し、観測に基づく真のグリニッジ標準時を世界時 $\UT1$ と呼ぶ。
今日我々が常用している時刻系は、この協定世界時を基準に定義されているものである。
(例えば、現在の日本時間 $\JST$ は $\UTC$ を9時間進めた時刻 $\text{UTC+9:00:00}$ に正確に等しい)
2022年以前の協定世界時
2022年まで、協定世界時 $\UTC$ は以下のように定められていた。
- $\UTC$ における1日の長さは基本的には丁度 $\text{86,400}\,\sec$(国際単位系秒)である。
- $\UT1$ に対して $\UTC$ が $0.9\,\sec$以上進む場合、余分な秒を1秒挿入して $\UTC$ の進みを遅らせる。(正の閏秒)
正の閏秒を適用(挿入)した日に限り、$\UTC$ における1日の長さは $\text{86,401}\,\sec$となる。
- $\UT1$ に対して $\UTC$ が $0.9\,\sec$以上遅れる場合、時刻を1秒切り詰めて $\UTC$ の進みを早める。(負の閏秒)
負の閏秒を適用(削除)した日に限り、$\UTC$ における1日の長さは $\text{86,399}\,\sec$となる。
協定世界時は、「秒」の刻みを一定(国際単位系秒)としつつ、時刻の値が世界時 $\UT1$ に対して $\pm0.9\,\sec$の範囲に収まるように定めた時刻系であった。
2022年以降の協定世界時
2022年、国際度量衡総会にて、閏秒による協定世界時 $\UTC$ の調整は当面行わないことが決まった。
すなわち、機械的に丁度 $\text{86,400}\,\sec$ を以て1日とするということである。
今後どのように協定世界時 $\UTC$ と平均太陽時との同期を取っていくのか(或いは取っていかないのか)については、2026年の国際度量衡総会にて提案がある模様。
地球時
協定世界時は閏秒の挿入/削除により1日の長さが変動するので、地球の自転とは無関係な天体の運行の計算等には不向きである。
そのような計算には、以下で定まる地球時 $\TT$ という時刻系が用いられる。
- $\TT$ における1日の長さは常に丁度 $\text{86,400}\,\sec$(国際単位系秒)である。
- $\text{\date{1977}{1}{1} 00:00:00 (UTC)} = \text{\date{1977}{1}{1} 00:00:48.184 (TT)}$ である。
ΔT = UT1 − TT
地球時 $\TT$ は地球の自転と同期していないため、世界時 $\UT1$ との乖離は不規則に増減する。
この乖離を $\DT$ と書く。(下図)
同じ時刻 $t$ を地球時 $\TT$ で表した値 $\tTT$ と世界時 $\UT1$ で表した値 $\tUTo$ との関係は次式の通りとなる。
\[
\tTT = \tUTo + \DT
\]
ΔT' = UTC − TT
協定世界時 $\UTC$ と地球時 $\TT$ の時刻の乖離(1977年時点で $48.184\,\sec$)は、閏秒を挿入する度に広がり、削除する度に狭まる。
本稿ではこの乖離を $\DT'$ と呼ぶことにする。(下図)
同じ時刻 $t$ を地球時 $\TT$ で表した値 $\tTT$ と世界時 $\UTC$ で表した値 $\tUTC$ との関係は次式の通りとなる。
\[
\tTT = \tUTC + \DT'
\]
1972年に現行の $\UTC$ が導入されてから2022年までは $\left| \DT - \DT' \right| < 0.9\,\sec$ が保たれていた。
2022年以降は当面 $\DT' = 69.184\,\sec$ で固定されている。
ユリウス年数
天体の運行を計算する際は、次式で定められる $\Jtk$ と呼ばれる基準時刻からの経過時間の形で時刻を表すことが多い。
\[
\begin{align*}
\Jtk
&= \text{\date{2000}{1}{1} 12:00:00.000 (TT)} \\
&= \text{\date{2000}{1}{1} 11:58:55.816 (UTC)} \\
&= \text{\date{2000}{1}{1} 20:58:55.816 (JST)}
\end{align*}
\]
この $\Jtk$ からの経過時間を $\text{31,557,600\,\sec}$($365.25\,\day$)を単位として表したものがユリウス年数 $\JY(t)$ である。
時刻 $t$ が $\Jtk$ より前の時刻である場合は $\JY(t)$ は負の値となる。
\[
\JY(t)
:= \frac{\text{$\Jtk$ から $t$ までの経過秒数}}{\text{31,557,600\,\sec}}
= \frac{\tTT - \text{\date{2000}{1}{1} 12:00}}{\text{31,557,600\,\sec}}
\]
暦の上の日時は地球時 $\TT$ ではなく地方真太陽時 $\LAT$ や地方平均太陽時 $\LMT$(現在は $\JST$)であるから、旧暦を計算する際は実際には以下の形の式を用いることになる。
(以下の式において、時刻の差は閏秒等を考慮せず単純に日数と時刻の差により算出される時間を表す)
\[
\JY(t) =
\begin{cases}
\dfrac{(\tLAT - \text{\date{2000}{1}{1} 12:00}) + \DT - \TZ - \ET(t)}{\text{31,557,600\,\sec}} &\text{(寛政暦・天保暦)} \\[2ex]
\dfrac{(\tLMT - \text{\date{2000}{1}{1} 12:00}) + \DT - \TZ}{\text{31,557,600\,\sec}} &\text{(明治改暦から現行 $\UTC$ 導入まで)} \\[2ex]
\dfrac{(\tJST - \text{\date{2000}{1}{1} 12:00}) + \DT' - \TZ}{\text{31,557,600\,\sec}} &\text{(現行 $\UTC$ 導入以降)}
\end{cases}
\]
ここで、$\TZ$ は $\UTC$(或いは $\GMT$)に対する $\LAT$ 乃至 $\LMT$ の時差である。
\[
\TZ =
\begin{cases}
\text{ +9:03:03(京都)} &\text{(1872年以前)} \\
\text{ +9:19:01(東京)} &\text{(1873--1887年)} \\
\text{ +9:00:00(明石)} &\text{(1888年以降、但し1948--1951年夏季を除く)} \\
\text{+10:00:00(夏時刻)} &\text{(1948--1951年夏季)}
\end{cases}
\]
計算例1: 1989年7月6日3時(グレゴリオ暦・中央標準時)
例として、$\text{\date{1989}{7}{6} 03:00}$(グレゴリオ暦・中央標準時)のユリウス年数を計算する。
- $\text{\date{2000}{1}{1} 12:00}$ から $\text{\date{1989}{7}{6} 03:00}$ までの時間は $-3831\,\day\,\text{9:00:00}$
- $1989\text{年}7\text{月}$当時 $\DT' = 56.184\,\sec$
- 協定世界時 $\UTC$ と中央標準時 $\JST$ との時差は $\TZ = \text{9:00:00}$
であるから、$\text{\date{1989}{7}{6} 03:00}$(グレゴリオ暦・中央標準時)のユリウス年数は次式の通りとなる。
\[
\begin{align*}
&\JY(\text{\date{1989}{7}{6} 03:00 (JST)}) \\[1ex]
&= \dfrac{(\text{\date{1989}{7}{6} 03:00} - \text{\date{2000}{1}{1} 12:00}) + \DT' - \TZ}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex]
&= \dfrac{-3831\,\day\,\text{9:00:00} + 56.184\,\sec - \text{9:00:00}}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex]
&= \dfrac{-3831\,\day\,\text{17:59:03.816}}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex]
&= \dfrac{-\text{331,063,143.816\,\sec}}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex]
&= -10.49075797
\end{align*}
\]
計算例2: 1854年2月13日12時(グレゴリオ暦・京都真太陽時)
別の例として、$\text{\date{1854}{2}{13} 12:00}$(グレゴリオ暦・京都真太陽時)のユリウス年数を計算する。
- $\text{\date{2000}{1}{1} 12:00}$ から $\text{\date{1854}{2}{13} 12:00}$ までの時間は $-53282\,\day$
- NASA の略算式に拠ると、$1854\text{年}2\text{月}$当時 $\DT = 7.286\,\sec$
- 協定世界時 $\UTC$ と京都時間との時差は $\TZ = \text{9:03:03}$
- 均時差は $\ET(\text{\date{1854}{2}{13} 12:00 (LAT)}) = \bigg( 52.8273\degree - \arctan\dfrac{\tan54.1398\degree}{\cos23\degree26'} \bigg) \cdot \dfrac{1\,\day}{360\degree} = -868.836\,\sec$
- 太陽の平均黄経 $52.8273\degree$ 及び真黄経 $54.1398\degree$ は略算式より求まる[注3]
であるから、$\text{\date{1854}{2}{13} 12:00}$(グレゴリオ暦・京都真太陽時)のユリウス年数は次式の通りとなる。
\[
\begin{align*}
&\JY(\text{\date{1854}{2}{13} 12:00 (LAT)}) \\[1ex]
&= \dfrac{(\text{\date{1854}{2}{13} 12:00} - \text{\date{2000}{1}{1} 12:00}) + \DT - \TZ - \ET(\text{\date{1854}{2}{13} 12:00 (LAT)})}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex]
&= \dfrac{-53282\,\day + 7.286\,\sec - \text{9:03:03} - (-868.836\,\sec)}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex]
&= \dfrac{-53282\,\day\,\text{8:48:26.878}}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex]
&= \dfrac{-\text{4,603,596,506.878\,\sec}}{\text{31,557,600\,\sec}} \\[2ex]
&= -145.87917037
\end{align*}
\]
参考資料